大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和52年(ネ)1710号・昭51年(ネ)288号 判決

一 ≪証拠≫によれば、福原知英を控訴人、福原庄一郎を被控訴人とする当裁判所昭和二七年(ネ)第三二号土地明渡並に損害賠償請求控訴事件について昭和二八年一一月一九日当裁判所において、「一 庄一郎は本件土地が知英の所有であることを承認すること、二 知英は庄一郎及びその子孫に対し本件土地を無償にて耕作する権利を与え、庄一郎及びその子孫をして右権利を失わしめるような一切の処分をしないこと、三 知英が死亡したときは本件土地は庄一郎及びその相続人に対し贈与すること、四 知英、庄一郎間には本件以外の係争事件があるけれども之等についても爾後互に和協の道を講ずる意思を表明すること、五 知英、庄一郎が現に耕作している農地についての作業は双互に妨害しないこと、六 知英はその余の請求を抛棄すること」なる旨の裁判上の和解が成立したことが認められる。

二 控訴人ら及び参加人は、右裁判上の和解は知英が庄一郎との間で本件土地を死因贈与したものであるところ、知英は昭和四七年二月二五日本件土地を参加人に譲渡したので庄一郎もしくはその相続人に対する死因贈与は取消されたと主張するのに対し、被控訴人らは右裁判上の和解の内容である本件土地の死因贈与はその成立の経緯及び和解の内容からして、撤回しえないものであると主張する。

1 そこで、まず本件裁判上の和解の内容となっている前記認定の死因贈与の成立の経緯及び成立時の当事者の意思について調べてみる。

前記一で認定した事実と原本の存在存び成立に争いのない甲第一七号証ならびに弁論の全趣旨を綜合すれば、知英を原告、庄一郎を被告とする千葉地方裁判所木更津支部昭和二四年(ワ)第九号土地明渡並損害賠償請求事件について、同裁判所は昭和二七年一月一〇日本件土地が知英の所有ではなく、庄一郎の所有に属するものとの理由を付して、知英の請求を棄却する旨の判決を言渡したこと、知英は右判決を不服として、当裁判所に控訴したが、その後昭和二八年一一月一九日当裁判所の和解の勧試により、前記内容の裁判上の和解が成立したこと、右和解条項では、前記のとおり、本件土地が知英の所有であるとされたが、知英は庄一郎及びその子孫に対し本件土地の耕作権を失わしめる一切の処分をせず、本件土地を知英が死亡したときに庄一郎及びその相続人に対し贈与することなる旨を約したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によれば、右裁判上の和解においては、知英はその死亡の時に本件土地を庄一郎又はその相続人に対し贈与することを合意しているものの、その主旨とするところは、双方の互譲により本件土地の所有権を生前は知英に、同人の死後は庄一郎もしくはその相続人にそれぞれ帰属させることにあると推認されるのであって(なお、この点に関し、原審証人福原五郎も、右和解により、本件土地の所有権は知英が死亡するまでは同人の、同人の死亡後は庄一郎に移転するものと思っていた旨証言している。)、右贈与が知英において自己の一存で何時でも右贈与を取り消し、または、本件土地を他に売却等の処分をなしうるものとして死因贈与をしたものと認めることは到底できない。

2 そして、本件のように死因贈与であっても、その成立の経緯に照らして贈与者が死亡時に受贈者(又はその相続人)に対し贈与物件の所有権を移転することを確定的に約したものと認められ、かつ右贈与の爾後における取消又は変更を許すことが明らかに不相当と認められる特別の事情がある場合においては、贈与者の最終意思を尊重することを建前とする遺贈と同一視すべきものではないから、かかる死因贈与については、遺言の取消に関する民法一〇二二条は準用されないものと解するのが相当である。

しからば、右死因贈与について、知英がこれを取り消し、あるいは本件土地を第三者に処分しうるものであることを前提とする控訴人ら及び参加人の主張は採用することができない。

(渡辺 藤原 渡辺)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!